デジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れていると言われる不動産・建設業界。ベトナムIT最大手のFPTソフトウェアは、同国において欧州SAPのERPパッケージと独自のソリューションを組み合わせ、不動産・建設業界で多くのDXを成功させている。
FPTジャパンホールディングスは2022年8月24日、不動産・建設業における最新DXについてのセミナーを開催し、同社のソリューションやベトナムでの成功事例を紹介した。その模様をご紹介します。

 

 

はじめに、SAPビジネス推進を担当するFPTコンサルティングジャパンの遠藤より日本企業のDXの現状を共有した上で、不動産・建設業のDXについて言及した。「リニア中央新幹線や大阪万博など、大型のプロジェクトが多くある一方で、労働力不足や人口減少、労働環境の変化にも対応していく必要がある。それらの課題を解決するにはITの活用が欠かせない」(遠藤)。
不動産・建設業の場合、大型のプロジェクトであれば期間が5~10年、予算規模が数千億~1兆円規模になる。「他業界よりもプロジェクトの規模が桁違いに大きいので、ITでの管理も非常に難しい。ただし、それが上手くできれば大きな利益につながるし、顧客満足度向上や競争優位性の確立など、様々なリターンが期待できる」(遠藤)。

FPTが提供する不動産・建設業向けのソリューションについては「SAPのERPを軸に据えているが、SAPの基本機能だけでは足りない部分も存在する。そういったところを当社が独自に開発し、より使い勝手を良くしている」と語った。その一例として、経費と契約管理に関する機能を紹介し、「SAPと当社独自のソリューションを組み合わせることで、品目一つひとつの管理を実現した。不動産・建設業の企業からの『SAPの基本機能では実現できず、使い勝手が悪い』という声に応えた」(遠藤)とした。

 

「リアルタイムの情報閲覧や運用コスト削減を実現」

続いて、ベトナムの大手不動産会社ファット・ダットのCIO ヴ・ホアン・バック氏が登壇した。同社はホーチミン、ダナン及びその周辺都市で、高級マンションの建築・販売を手掛けており、2022年8月、ベトナムにおいて不動産プロジェクトを開発および展開する企業トップ3、利益率の高い上場企業トップ4にランクインした。

バック氏はSAP導入前の当時の状況を「ビジネスプロセスが複雑で、同じ業務を重複してシステム化していた。また、部署ごとにシステムが分かれていて、データの連携ができていなかった。結果、データをリアルタイムに集めることができず、システムの運用コストもかさんでいた」と振り返る。具体的には、以下のような課題を抱えていた。

・複雑なプロセスや運用
・データの欠如、不正確なデータ
・リアルタイムのデータ収集
・個々のソフトウェアシステムの複雑さ、重複、連携や管理の不足
・管理運用コスト削減

そこで現在ファット・ダットは、FPTの支援を受けてSAPのERPパッケージ「S/4HANA」の導入に取り組んでいる。2020年8月から段階的に導入を進め、2022年中に導入を完了する計画だ。同社はSAPの導入により、不動産業のバリューチェーン全体の管理をデジタル化する考えだ。具体的には、土地の購入や建物の設計・建築、図面作成・保管、原価管理、プロジェクトの進行管理、安全管理、検査、販売、などを対象にしている。
今回SAPと共に、その機能を補完するFPTの独自パッケージ「DMS(Document Management System)」を導入した。バック氏は「DMSが特に力を発揮したのが、SAPの不動産管理モジュール『RE』の機能の補完だ」と語った。「REにおける設計数量や契約管理、負債・返済、ベンダー管理といった各機能がDMSにより、不動産業界の商習慣にマッチしたものになった」(バック氏)という。

現在もSAPの段階的な導入を続けている最中だが、バック氏は「既に経営判断に必要な情報をリアルタイムで閲覧したり、運用コストを削減する、といったことが実現できている」と語る。新システム導入後は、ビジネスパートナーや下請け企業に対して、一部機能の共同利用を促す、といったことも検討しているという。

 

「短期間で導入を成功させるには適切なパートナーが必要だった」

次にベトナムの大手建設会社コテコンズのCFO カオ・マイ・レ氏が登壇した。同社はベトナムの大手建設会社の1社として、高級高層マンションやビルの建設を手掛けている。2018年には、東南アジアで最も高いビル「ランドマーク81」を建設。最近では、ベトナム現地法人レゴ・マニュファクチャリング・ベトナム(LEGO Manufacturing Viet Nam)の新たな玩具工場の建設を担当することが決まった。

コテコンズは、FPTの支援を受け2021年7月にSAPの導入を終えた。レ氏は「コロナ禍においても業務の効率を落とさないよう、全ての仕事をオンラインで進められるようにしたいと考えた。すぐにシステムを使いたかったので、FPTに支援してもらうことを決め、3か月で全ての機能の導入を終えた」と話す。
3ヶ月という短期間で導入を終えられた理由としてレ氏は、経営層の団結や他部門との密な連携といった社内の取り組みの他に、「プロジェクトの成功に向けて伴走してくれたFPTやSAPの力があった」と強調した。

SAP導入前のコテコンズは、財務にパッケージソフトを導入し、人事管理、入札や設備管理などの他のシステムは独自に構築していた。「それぞれの部署ではシステムが機能していたが、データの連携に多くの時間と手間がかかっていた」(レ氏)。
データ連携の遅れにより、経営判断や各種施策の実行に大きな問題が生じていたという。レ氏は一例として入札時の価格計算を挙げ、「数か月前の市場データに基づいた価格案しか提示できない、といった状態になっていた」と語った。
コテコンズが掲げている2025年までに売上高30億米ドルを達成するという目標を達成するためにも、部門ごとに独立したシステムでプロジェクトを管理していた状況からいち早く脱却する必要があった。

現在はSAPと、FPTの独自パッケージDMSを導入したことで、経営層はSAPに関する深い知識がなくともDMSを介して、最新のデータに基づく経営判断ができるようになった。「建設業界の複雑さを体系的に整理し、理想のデータの利活用が進んでいるのは、優れたSAPシステムの採用とパートナーとの密接な連携のおかげ」(レ氏)と語った。

 

DXのアイデア創出のためのワークショップを実施

続いて登壇したFPTソフトウェアジャパンの小野内より、不動産・建設業におけるFPTの取り組みや、テクノロジーについて紹介した。
まずは、FPT独自のフレームワーク「FPT Digital Kaizen™(以下、デジタル改善)」を紹介した。「日本の”改善”の原理に触発されたもので、DXを小さく始めて段階的に進められるようにするものだ」(小野内)。
デジタル改善では「ビジネス」「IT」「ピープル」の3つの視点でDXに取り組む。「DXというと、最新のテクノロジーを使うことをイメージされるかもしれないが、優先すべきは結果を出すことだ。新しいテクノロジーが必要ないケースもあるので、何が必要かをしっかり判断することが大切になる」(小野内)と指摘した。
一方で、必要に応じてAIやクラウド、RPAなどを使った最新のテクノロジーの必要性も強調した。例として、物流倉庫や製造ラインなどで物資を自動で搬送するロボットであるAMR(自律走行搬送ロボット)や、メタバース(仮想空間)を構築するためのソフト製品群「akaVerse」などの自社製品を紹介した。

最後に、FPTジャパンホールディングスのファビアン・ルディエより、実際のプロジェクトにおいてユーザー企業と行っている、DXについてのアイデア創出プロセスを体験するためのワークショップを行った。
参加者は6人1グループに分かれ、オンライン上のコラボレーションツールを使いながら、業務効率の向上や、顧客、市場、社会に対する新たな価値創出のためのデジタルテクノロジー活用のアイデアを挙げていった。ツールの直観的なインターフェースと匿名性が積極的なアイデアの発散を促し、短い制限時間内で多様なアイデアが共有された。

 

 

コラボレーションツールのホワイトボード

 

ワークショップ後半では、ディスカッションや投票機能を活用しながら、「インパクト」と「エフォート」の2軸を用いて、最終的に取り組むべきアイデアの特定を行った。「IT人材の給与アップ」や「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」など、グループごとに様々なアイデアが選出された。実際のプロジェクトでは次に、具体的なアクションプランを作成する段階へと移っていく。
「このようにすると、優先して取り組むべきハイインパクト、ノーエフォートの事項が一目で分かる。非常に短時間のワークショップだったが、DXをどういう順番で進めるべきかを考えるヒントがあったのではないか」(ルディエ)と語り、講演を締めくくった。

 

FPTはエンドツーエンドのソリューションプロバイダー

本イベントは、FPTが過去15年に渡り、ベトナムで不動産/建設業界向けの付加価値創出や基幹システム導入支援を行ってきた経験を踏まえ開発した、DX活用および経営管理ソリューションの日本市場への展開を見据え、開催しました。
500名以上の有資格者を抱えるSAPソリューションを基軸としつつも、お客様のご要件にあわせて必要な機能・システムを開発し、お客様の課題の解決に貢献できること、更には課題そのものの特定から解決案を形にしていくためのステージからお客様に寄り添うことをご紹介しました。今後も様々なイベント、コンテンツを企画・発信してまいりますので、ご期待いただけますと幸いです。

 

関連リンク:

・SAPサービスについて
https://fptsoftware.jp/fpt-services-for-sap/

・S/4 HANAプラットフォーム上で開発されたFPTの不動産業界向けソリューション
https://fptsoftware.jp/fpt-services-for-sap/2022-07-sap-for-realestate/

・DXサービスについて
https://fptsoftware.jp/services-offerings/dx/