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米国に本社を置き、企業向けクラウド型データ活用プラットフォームするDomoによると、人間は1秒間に少なくとも1.7 MBのデータを生成するそうです[1]。5GやIoTの台頭に伴ってデータ量が増え続けるにつれ、古典的なバイナリー・コンピューティングでは、大きな意味のある洞察を得ることが難しくなっています。そんな中、量子コンピューティングが、特に金融分野で最も急速に成長しているデジタルトレンドの1つとなっています。

量子コンピューティングの概念は、1980年代に物理学者たちが、物質の本来備わっている量子力学的性質を利用して計算を解くという、まったく新しいアプローチを考え出したことに端を発します。量子力学の重ね合わせや干渉といった現象を基礎としており、古典コンピュータとの最大の違いは、情報の基本単位である「ビット」にあります。古典ビットは、0または1の2つの状態のいずれかにしかなりませんが、量子ビット(qubit)は、一度に複数の状態を取ることができます。この現象は重ね合わせと呼ばれます。この重ね合わせにより、qubitのパワーと容量が効果的に増強され、高速かつ低消費電力で計算を実行することができます。

 

量子コンピューティングがもたらす機会

量子テクノロジーは、投資リーダーによるポートフォリオの分散と投資の改善・リバランスの支援、市場環境への適合、投資家の目標への対応などにより、今日の複雑なトレーディング状況を打破することが期待されています。数ある有望な機会の中でも、オプションプライシングは依然として非常に人気があります。これは、アルゴリズム的に証明可能な量子優位性であり、古典的なモンテカルロ法と比較して証明可能な利点でもあります。金融サービスにおけるその他のユースケースとしては、不正検出、ポートフォリオ・リスクの最適化、取引決済に関する問題などが考えられます。

量子コンピューティングは、計算性能を大きく変えるものであり、まだ初期段階にあります。しかし、量子コンピューティングが急速に発展すれば、金融サービスの様々なアプリケーションに変革をもたらす可能性があります。三菱UFJフィナンシャル・グループ、Citigroup、Wells FargoといったBFSI大手企業は、いずれも量子コンピューティングによるアプリケーションに向けた投資と実験を始めています。マッキンゼーによると、2021年度の量子技術に焦点を当てたスタートアップ企業への資金提供は前年と比較し、2倍以上の14億ドルに達しました。また、2040年には年間900億ドルを越える市場に発展するとしています[2]

 

量子古典ハイブリッドアプローチ 

トレーディングの最適化と投資ポートフォリオの最適化は、金融機関にとって代表的な課題です。古典コンピューティングを使用してこれらの課題に対処するのは、負担のかかるプロセスです。通常、投資ポートフォリオは数十から数百の資産を含み、複数の期間にわたるものであるため、古典コンピュータでは許容される時間内に正確な答えを出すことができません。これらのデバイスの場合、クラッシュしたり、応答に時間がかかりすぎたり、さらに悪いことに、不正確な結果を出したりすることがあります。

そこで活躍するのが、量子コンピューティングに対応したツールや量子ベースのアルゴリズムです。多数の変数を同時に扱うことができる独自の機能により、調べるべき可能性の数をすばやく絞り込むことができます。そこで古典コンピューティングを利用すれば、最良の答えを正確に特定することができます。このようなアプローチは、より堅牢で柔軟性があり、優れたエラー耐性でアルゴリズムを改善しようとするもので、量子法の可能性を最大限に広げるために必要であると期待されています。

 

量子パワーがもたらす未来に備える 

多くの企業、特に欧米の大手銀行は、すでにビッグデータ処理の重要性に気づいています。これらの企業は、新しい可能性を見つけ、クラウド機能を活用するために、量子開発者や技術エキスパートとのパートナーシップを積極的に構築し始めており、スムーズな導入プロセスへの投資の可能性を探っているところです。

しかし、量子コンピューティングという難問を解くのは一朝一夕にできるものではありません。 マッキンゼーの予測では、2030年までに稼働する量子コンピュータの数は2,000台から5,000台にとどまるものの、問題解決に必要なハードウェアは2035年以降にならないと存在しない可能性があるとしています[3]。量子AIの登場は、早くとも2020年代後半と推定されています。それまでは、企業は最適化の問題に対処するためにハイブリッドアプローチを採用することが予想されます。

量子コンピュータが解決しようとする複雑な金融問題と比べると、量子コンピュータはまだ発展途上の段階にあります。しかし、量子コンピュータの持つ可能性を考えると、量子コンピュータは金融業界に革命を起こし、2030年代半ばには価値を生み出し始める存在となるでしょう。社会的影響はすぐには出ないかもしれませんが、ビジネスリーダーはこの産業の第一波に備え、その潜在能力を活用する準備をすることが極めて重要となります。

 

参考文献(英語サイト)

[1] How much data is generated every minute? Domo

[2] How quantum computing could change the world McKinsey&Company

[3] A game plan for quantum computing McKinsey&Company

 

関連リンク

・金融サービスについて

https://fptsoftware.jp/industries_services/banking_finance/