医療機器やサービスを含むヘルスケア業界は、これまでもITと切り離せない関係にあった。最近のAI(人工知能)の普及やブロックチェーンの登場により、その可能性は無限ともいえる様相で広がっている。本ブログでは、ヘルスケアITについてこれまでの経緯を振り返る一方で、AIが具体的にどのように活用されていくのかを考える。AI音声認識、AI言語処理、AI画像診断と言った基礎技術を用いて、電子カルテによる情報のデジタル化や、ブロックチェーンの活用などにより、患者と医療機関と薬局などでデータを共有できる医療ITプラットホームの構築なども視野に入ってきている。

 

 

■これまで達成しているIT×ヘルスケア

これまでもヘルスケアとITは切っても切れない関係にあった。ある超音波診断装置を開発する日本のトップメーカーの1つは、国際競争力の向上のため、新規装置の開発に用いるソフトウエアの再構築とGUIの再設計を実施した。アジャイル開発をベースに仕様を検討し、実装、結果として、高い品質の診断装置に仕上げることに成功した。

医療情報管理分野においても、遠隔読影サービスで実績を持つ国内のある企業は、収益の拡大を目的として、自社でPACS(医療用画像転送保管システム)の開発に踏み切った。医療機器、医療情報管理、医療情報システムなど分野を問わず、ヘルスケアはITに支えられてきた経緯がある。

 

■ ヘルスケア業界のAI活用でもデータの扱いなど専門的な課題が存在

一方で、ここ数年におけるAI活用の裾野の広がりやブロックチェーンの登場によって、これまでの延長線上とは異なる別次元の進化が予想されている。従来のIT活用と同様にデータ処理の課題などがあるため、実施にはAI、ブロックチェーンの専門知識が必要になってくる。

厚生労働省が2020年6月18日に公表した保健医療分野AI開発加速コンソーシアムについての報告では「AIの開発には学習・検証のため、医療情報を含め、データの利活用が不可欠」と指摘している。そのためセキュリティの担保、データの連結、データ基盤などの医療情報を利用した研究開発の課題は、AI開発でも共通しているとの認識を明らかにしている。*1

具体的にどのような技術がAIと絡めて活用されていくのだろうか。例えばAI音声認識技術を使うことで、従来キーボードを使ってカルテに入力していたところを、患者との会話がそのままカルテになるといった仕組みに変更できる。

また、AI言語処理では診療記録などのテキストの効率的な運用が期待されている。例えば、あるAIでは4,000以上の白血病の論文を1秒もかからずに読めると言われている。また大学病院規模では1,000種類以上もの文書が月に20万以上も作成されるという。紙のカルテにとじ込む人件費だけで年間2,500万円に上るとのデータもある。*2

さらに、多数の論文の内容を把握することで、症状から診断名を推測する際に、症例の少ないデータも漏れなく参照できるため、誤診を防ぐ効果もある。日本の学会が長年にわたって行ってきた症例報告は、独自の行動であるため、遅れていると言われる日本における医療AIのレベルを引き上げる効果も期待されている。

もう1つはAI画像診断だ。胸部X線画像からより高い精度で肺炎を検出すると言った機能に期待が集まっている。肺炎は毎年約70万人の子供の命を奪い、世界人口の7%に影響を及ぼしている。AI画像診断の一つである胸部X線では肺炎の有無を分類することに注目が集まっている。

 

■ ブロックチェーンの活用がもたらす安全性のメリット

ここで、AIを含めて期待が集まるテクノロジーについて、さらに深掘りしてみる。特に注目が集まっているのはブロックチェーンの活用だ。分散型台帳と言われるブロックチェーンは、仮想通貨を支える技術として注目を浴びている。データをネット上に分散させて記録管理することで改ざんが極めて難しくなり、セキュリティ上のメリットも大きい。膨大なデータを処理する医療分野でも、医療研究家患者のデータ活用において有望とみられている。

ブロックチェーンの活用が期待される分野に電子カルテがある。従来の電子カルテには、事後的に改ざんされるリスクがある。また、同じ人物のカルテが各医療機関に散在し、そのデータ連携が難しいことも、医療費の増加や、X線検査の重複受診による被爆量の増加といった患者の不利益につながっている。

電子カルテとブロックチェーンの組み合わせが注目される理由として、そうした課題の解決が挙げられる。電子署名が付与され改善が困難なデータを他の機関と安全に共有することで、データの安全性強化や、医療機関の事務コストの削減、患者の利便性向上などが期待できる。

海外では、新薬の開発時において、治験データを改ざんするといった不正の防止にブロックチェーンが活用され始めている。データの信頼性と透明性は、医療や製薬会社にとって最も重要であるため、その意味でも親和性の高い技術といえる。また、日本では、医療機関が持つデータのフォーマットが違っていたり、紙データのままであることで2次利用が難しかったりという課題がある。社会保険に関するレセプトデータ、国民健康保険連合が所持する医療、健康診断、介護などのデータはバラバラに存在している。 *3

そこで、ブロックチェーンをはじめとした技術で、こうした情報を集約することが必要になってくる。

 

■ 患者、医療機関、薬局などでデータ共有可能な医療ITプラットホーム

医療業界では、カルテを含むさまざまな情報が散在しており、連携した有効活用ができていないという課題がある。AIやブロックチェーンといった新たな技術は、そうしたデータ間を有効かつ安全に連携していくものとして、今後活用が進んでいきそうだ。

米国の多国籍電子機器受託製造業者は、医療アプリケーションや医療機器をサポートするプラットホームを開発しており、臨床データを取得して、ビッグデータ技術を用いて患者の医療や健康維持をサポートしている。その「DHP(デジタルヘルスプラットホーム)」の構築のため、Google Cloud Service(KubernetesEngine、CloudSpanner、DataFlow、CloudBigQueryなど)を導入、AIを組み込んだチャットボットも導入した。

患者や家族、医者や介護者、製薬会社、薬局などのデータ連携を実現する医療ITプラットホームの構築が望まれる中で、有力な事例となっている。

 

■DX(デジタル変革 or デジタルトランスフォーメーション)が進める医療IT

画像認識などにおけるAI活用やブロックチェーンによる変革は、医療ITにおいて既に広く認識されている。一方で、現在進むDXにおいては、新たなアイデアを次々と現実のソリューションとして形にする勢いがある。

最近であれば、手術前の本人確認AI、左右眼判別AIなどを開発し、既に手術室で活用しているという医療機関がある。また、介護職員に的確なタイミングで業務に関する指示を出すAIを開発し、介護施設に導入するという事例も出てきている。

IT業界では、コンテナと呼ぶアプリケーション開発における大きな進歩が生まれている中で、IT側から医療現場に変化を要請する場面も増えるかもしれない。いずれにしても、テクノロジーの高度化が確かなものになる中で、従来のヘルスケアが後れを取ってきたIT活用による変革は、今後着実に進んでいきそうである。

 

 

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【Written by FPTジャパンホールディングス 2021年2月9日】

 

【Reference】